【小説】夜に彷徨うもの
夜に彷徨うもの
ロブ・サーマン著。原題は"Cal Leandros series"。第4巻までが邦訳されており、第1巻のみ上下巻のため、既刊は5冊。人に紛れて人外が棲むニューヨークを舞台とした、魔物の血を引くキャルと、異父兄のニコが主人公のダークファンタジー。
- 著:ロブ・サーマン
- 訳:原島文世
- 出版社:中央公論新社
- 発行日:2008年5月25日
既刊
アメリカでは第10巻まで出版されていますが、以降は未完のまま刊行がストップしているようです。
邦訳は2011年に刊行された4巻を最後に止まっていて、今後も続刊は期待できなさそうです。ただ、話としては4巻でひとつの区切りとなっているので、第1部が完結したあたりというところです。
- Nightlife : 夜に彷徨うもの上・下
- Moonshine : 月影の罠
- Madhouse : 血の饗宴
- Deathwish : 闇の劫火
- Roadkill
- Blackout
- Doubletake
- Slashback
- DownFall
- Nevermore
あらすじ
金と引き換えに魔物の子を産んだ母親と、ある計画のために人間に子を産ませた人外の父親。4歳のときに生まれたばかりの弟キャルを渡されたニコは、息子を嫌悪する母親に代わって、ほとんど一人でキャルを育てていきます。
オーフィと呼ばれる父親の種族は、時折兄弟の前に姿を現し、キャルが14歳のときにあちらの世界に連れ去ってしまいます。2日後にキャルは自力で戻ってくるものの、連れ去られていた間の記憶を失い、16歳に成長していた。という過去が序盤でざっくりと語られています。
それから3年半。ニューヨークの大都会に紛れて逃げ続けているキャルとニコの前に、オーフィが姿を現す。オーフィにはある目的があり、キャルとニコは否応なく戦いに巻き込まれていくことになります。
感想
兄弟ものが好きな方には、全力でおすすめできるシリーズです。冷静でストイックな兄のニコと、ちょっとひねくれていて人外の能力を持つ弟のキャル。
作中の二人の会話にも出てきますが、見事な共依存関係で、どちらも一人で生き残る気はまったくありません。逆に、自分が死んでも相手には生きていてほしいと牽制し合っていますが、最終的に諦めて、死ぬときは一緒かなという結論に至ります。どうしようもない。
物語はずっとキャルの視点で語られますが、4巻「闇の劫火」ではニコの視点と交互になっています。クールで口数がそれほど多くないキャラのため、胸中が語られると新鮮というか、超冷静に弟至上主義を語り尽くしてくれます。
どちらも相手に何かあったときに理性のタガが外れますが、キャルが動揺して激高するのに対し、ニコのほうは氷点下まっしぐらな感じです。
1巻の終盤では、ダークリングに支配されたキャルを殺すために、髪をばっさり切り落とし、喪に服した状態で姿を現します。最終的に土壇場で弟を救う道を見出しますが、その後のキャルの語りによると、あのまま殺すしかなかった場合は心中ルートだったとのこと。
そして、4巻の終盤。罠にはまってキャルが死んだという幻覚を見せられ、ニコの一人称のターンですぱっと理性を吹っ飛ばします。しかも、正気を失っていることを自覚しながらも、我に返ることを断固拒否する始末。曰く、正気に戻るとキャルの敵を討てなくなるから、今はその時ではないとのこと。
キャルが生きていると分かった後も、しばらく傍を離れられなかったり、毎晩うなされたりと、後遺症が半端ないです。
ニコについては、弟を最優先で守ろうとしていることは分かるものの、心情とかは若干謎でしたが、蓋を開けたら大体弟のことしか考えていないなこれ、という割とそのままな状態でした。
兄弟の共依存関係について
キャルとニコの兄弟関係がこの物語の要といっても過言ではないので、少し掘り下げた感想です。
3巻では、キャルの視点でニコより長く生きる気はないと語られています。母親から化け物と言われ続け、オーフィの能力に目覚めたキャルにとって、ニコが揺るぎなく弟を人間だと信じていることが、存在理由の根拠となっているように思えます。
自分は化け物だけど、ニコが人間だというからそれを信じるというような。だから、そのニコがいなくなったときにキャルが生きていけないのは分かる気がします。
で、4巻でのニコの視点を見ると、この兄貴、そもそも弟を守って生かすことを人生の唯一の目的にしている模様。なんというか、人生まるごと弟の生存ルートに全賭けしている感があるので、賭けに負けたらそこで終わりということなんでしょうか。
ちなみに、一応兄も弟も作中で恋人ができます。ニコの相手は吸血鬼、キャルは人狼です。まあ、上記のような兄弟関係なので、兄弟と恋人との間には越えられない壁がある状態ですけど。恋人がいるのに、兄弟二人で死ぬときは一緒かなとか言ってますし。本当に、どうしようもない。
ついでに、仲間もできます。人外ですが、これもなかなか良いキャラです。他人を信用せずに二人だけで生きてきたニコとキャルが、恐る恐る例外をつくっていく様子も読んでいて楽しめます。
10年以上前のシリーズですが、ときどき読み返したくなる一作です。
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