【歴史本】フランスをつくった王 シャルル七世年代記
フランスをつくった王 -シャルル七世年代記-
樋口淳著。ジャンヌ・ダルクを主役とした物語では、散々な描かれ方をすることが多いシャルル7世ですが、その評価は果たして正当なものなのか。ジャンヌ・ダルクに関する書籍は数え切れないほど出ていますが、その中でも掘り下げて語られることの少ないシャルル7世の生涯を追った1冊です。
- 著:樋口淳
- 出版社:悠書館
- 発行日:2011年3月31日
概要
ジャンヌ・ダルクを主役にした物語では、シャルル7世はあまり良い描かれ方をしていないことがほとんどです。後世の歴史家の評価も低かったそうですが、この本を読むと暗愚な王とは違う人物像が浮かび上がってきます。
本書は、序章でフランスの成り立ちから入り、百年戦争に至る経緯、そしてシャルル7世の生涯がどのようなものであったかを読みやすくまとめてあります。
シャルル6世は狂気王と呼ばれた通り、20代で精神を患いながらも、54歳で亡くなるまで在位し続けました。シャルル6世には6人の息子が生まれますが、1番目と2番目、および6番目は幼くして亡くなっています。
三男のルイは1歳のときに王太子となり、18歳で急死するまでフランスの第一王位継承者でした。ルイが亡くなったことで、四男のジャンが繰り上がって王太子になりますが、2年後に亡くなります。2人の兄の相次ぐ死を受けて、五男であるシャルルは14歳のときに王太子として即位しますが、3年後にトロワ条約で廃嫡に追い込まれます。
このトロワ条約についても様々な要因があり、結果としてシャルル6世が、娘婿であるイングランド王のヘンリー5世を次期フランス王と認めるという、凄まじい状況になっています。
トロワ条約の2年後、条約によりフランス王の後継者となったヘンリー5世が急死し、わずか2ヶ月後にシャルル6世が逝去。ヘンリー5世の権利は1歳にも満たないヘンリー6世へと受け継がれ、シャルル6世死去と同時に、廃嫡となっていた王太子はブルジュでシャルル7世として即位します。このように、即位の経緯だけかいつまんでも、実に波乱に満ちたものになっています。
シャルル6世の五男であるシャルル7世が生まれた当時、フランスはどんな状況だったのか、百年戦争に終止符が打たれた後、どのように国を立て直そうとしたのか。当時の王家の財政や、宮廷の権力図にも言及して解説してあります。
感想
ジャンヌ・ダルクが登場するまで、シャルル7世が無気力に何もせず事態を眺めていた、あるいは優柔不断で移り気。多くの創作物でも、そのように描かれることが多いシャルル7世ですが、その印象が覆される1冊です。
個人的には、シャルル7世の治世を考えると、特に創作物においては評価の低い描かれ方が多い印象だったため、この本との出会いは嬉しいものでした。
ジャンヌ・ダルクを見殺しにした王として悪名高いシャルル7世が、何を基準に動き、その治世はどのようなものだったのか。シャルル7世年代記とされた本書が、”フランスをつくった王”と題されている理由も分かります。
多少なりともシャルル7世に興味を持った場合は、おもしろく読める1冊だと思います。カラーで掲載されている地図や写真資料も、充実していました。
また、本書ではジャンヌ・ダルクについても言及されていますが、それ以上にページを割いて解説してあるのが、ジル・ド・レについてです。生い立ちや簡単な系図、青髯伝説、領地の財政から処刑に至るまで。この辺りも興味深かったです。
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