【アニメ】天狼 Sirius the Jaeger

天狼 Sirius the Jaeger

　2018年7月～9月に1クール12話で放送された、P.A.WORKS制作のオリジナルアニメ。昭和初期の東京および樺太を舞台とした、吸血鬼もの。

天狼 Sirius the Jaeger 上巻

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天狼 Sirius the Jaeger 下巻

P.A.WORKS（2018年）

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• 制作：P.A.WORKS（2018年）
• 監督：安藤真裕
• シリーズ構成：小柳啓伍
• 音楽：横山克
• キャラクター原案：西村キヌ

概要

　昭和初期の東京を舞台に、暗躍する吸血鬼とそれを狩る狩人による、聖櫃「天狼の匣」をめぐる戦いを描いた物語。後半は樺太へと舞台を移し、貴族種の吸血鬼との決戦となります。シナリオが堅実で、とても好みな作品でした。作画クオリティが高く、昭和初期の東京の描写や戦闘シーンも見応えがあります。

　主人公ユーリィ・ジロフは、吸血鬼に滅ぼされたシリウスの一族の生き残りで、組織に属する狩人です。シリウスの一族が守っていた叡智の結晶とされる天狼の匣を探す吸血鬼一族と、それを追う狩人。 任務で訪れた帝都東京で、ユーリィは吸血鬼となっていた生き別れの兄ミハイルと再会します。

　余談ですが、主人公の所属するV海運は、貴族や政治家により多角的・複合的に経営する巨大企業で、本部はロンドンにあるとの設定。また、天狼の匣については、列強国も探索をしているとのことで、日本陸軍の諜報員やら英国秘密情報部も登場します。

感想

　主人公周りの設定や描写がとても丁寧な作品です。吸血鬼一族が匣を求める理由、なぜシリウスの一族が滅ぼされるに至ったのか、狩人の部隊を率いるウィラードとの関係、ユーリィが狩人となった経緯。吸血鬼を滅ぼすことを生きる理由としていた主人公の成長と最後の選択、それから生き別れとなっていた兄ミハイルについて。

　代わりに、ユーリィ以外の狩人メンバーについては、あまり掘り下げがありません。そのあたりで好みが分かれそうですが、12話では、その他の主要キャラのバックボーンまでを入れ込むのは難しかったと思います。

　あとは、思わせぶりに引っ張らないシナリオも好印象でした。1話のラストで敵側にいわくありげなキャラが登場したかと思うと、2話終盤でそれが兄だと判明する……からの初EDでめちゃくちゃ仲良しなちびっこ兄弟。そして3話で過去編と、序盤から設定を出し惜しみせずに提示しています。

　ユーリィを庇って吸血鬼となったミハイルは、敵陣営で登場しますが、人間だったときから変わらず、基本的に弟を守るという立ち位置を崩さずにいます。家族や友人で敵味方という場合、互いへの愛憎や葛藤に焦点を当てる作品もありますが、中途半端に混ぜ込まずにその辺りは最小限にしてありました。

　ユーリィも、吸血鬼になっていても兄が生きていて嬉しかったと、育ての親とも言えるウィラードに吐露していて、空回ることのない安定感が本当に良かったです。

　対するウィラードは、物語中盤で吸血鬼となった兄と共に生きる可能性をユーリィに示唆するなど、こちらも組織よりもユーリィを優先する結論。ラストで匣の力を手にしたユーリィが世界中から追われる身となったときも、上からの確保命令は無視しそうな様子でした。

ヒロインについて

　もう一点特筆すべきは、ヒロインポジションの涼子お嬢様。来日した主人公たち狩人が身を寄せる男爵家のご令嬢で、企画上どうしてもヒロインが必要だったんだろうと察せられるキャラクターです。ユーリィに一目惚れし、積極的な上に剣術をたしなみ行動力があるため、ストーカーのごとくつきまとって樺太でのラストバトルにもちゃっかり顔を出しています。

　……と書くとなかなか難のあるキャラのようですが、一切主人公の足を引っ張っていないのが見事です。出番は多いのにストーリーの核心にはほとんど関与せず、最後までユーリィの行動に影響を与えることはないのですが、本人は何気に一回り成長しています。ストーリーの展開上不要なキャラでありながら、ヒロインの役回りはこなし、微笑ましく見守れる描き方が秀逸です。

　個人的には、好きな要素が詰め込まれていてとても楽しめました。吸血鬼と狩人の戦いを描いた兄弟もので、昭和初期の東京が舞台。キャラの立ち位置が一貫していて、破綻なくまとめられたシナリオと、見応えのある映像。いずれ、もう一度鑑賞したいと思える作品です。